2020年1月9日、東キャンパス 2号館大アンサンブル室にて、レコーディングエンジニア、プロデューサーとして活躍する深田晃氏による公開講座「マイクロホンワークショップ」を開催しました。
この公開講座は、サウンドメディア・コンポジションコース、エンターテインメントディレクション&アートマネジメントコースが主催し、DPA Microphones - ヒビノインターサウンド株式会社に機材協力をいただき実現したものです。
深田氏は、CBS/SONY録音部チーフエンジニア、NHK放送技術局・番組制作技術部チーフエンジニア等を歴任したレコーディングエンジニア。1997年、ニューヨークAESコンベンションで発表したサラウンドマイク「Fukada Tree」は、世界的に有名で多くの文献でも紹介されています。
今回の講座は、ドラムの収録を中心に、音の入り口であるマイクロホンについて基本的な技術から実際に設置する場合の考え方について解説いただきました。会場には、作曲、レコーディング、PAを学ぶ学生のみならず、名古屋の放送局に勤務される方々で構成される音の勉強組織、名古屋音屋の会や舞台や音響関係の仕事に従事される方々など多くの専門職の方にも参加いただき盛況なものとなりました。
講座は2部構成で、前半はマイクロホンについての説明と解説、後半はバンドを入れ実際に録音しその音を聴きくらべるという内容です。
深田氏が用意した資料をプロジェクターに表示しながら、前半の講座が始まりました。
まず最初に氏は、「音楽を録音する」ということについての前提を参加者に伝えました。「音楽というものは、演奏される楽曲、それを演奏する場所、それを演奏する演者の3つから成り立っていて、そのトータルでサウンドは構成されている。ひとつの方法論を覚えただけでは、上手く音楽を収録することはできない。3つのことを総合的に判断し、適切な方法を選択することが必要である。」そして、「すべてのオーディオチェーンの最初はマイクロホンであり、その挙動や特性について正しく理解することが基本である。もろちんプロの現場でもこの基本をしっかりと理解することがもっとも重要で、一見複雑に見えるマイクセッティングでもその基本を理解することが大切」と説明されました。その後、マイクロホンの構造についての説明があり、指向性パターンである、全指向性、双指向性を生み出すための構造について、スモールダイアフラムのコンデンサーマイクは音源から30cmの距離でおおよそフラットになるよう設計されているが、手で持って歌うボーカルマイクでは近接効果を考慮し、口に近づけた状態でフラットになるよう設計されている。また、指向性パターンと音源との距離の違いによる、直接音と間接音の集音の仕方の違いについてや、マイクのダイアフラムの大きさや材質による音の変化、さらに、マイクと音源との角度による音質の変化などなど、マイクを使う上での基本的な知識についてデータやグラフを交えながら丁寧に説明されました。
具体的には、DPA4011、DPA4091、AKG C414 、SHURE SM57など、定番といえるマイクを例に挙げ、周波数特性と背面に音源がある場合の背面特性などを説明。複数のマイクを設置した場合、背面から予期しない音を拾ってしまうことになり、背面特性の違いで音質に影響があることなどが紹介されました。さらに、複雑化するセッティングに対し、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンなどのレコーディングエンジニアを担当したグリン・ジョンズ氏 (Glyn Thomas Johns) が用いた、マイク3本でドラムの音を収録するセッティングを解説し、実際に多数のマイクを用いたマルチマイクで録音した場合との違いを講義の後半で聴きくらべできるようにしました。また、ステレオで録音する場合のマイクの間隔と角度についての関係性などにも言及されました。
講座の後半では、Drum、Bass、Keyの編成のバンドで実際に録音を行いました。ドラムの周辺には24本のマイクをセットし収録いたしました。(回線表)収録したところで、深田氏から位相の説明がありました。録音における位相とは、2つ以上のマイク信号の状態を表しますが、ドラムを何本かのマイクで録音する場合、マイクと音源との距離の違いや、ドラムではドラムの打面側にマイクをセットした場合と裏面側にセットした場合で、位相がずれている状態となります。これをタイムアライメントというトラックごとにディレイをとり、一番離れているOver Headのマイクが基準となるように微妙にタイミングをずらすことによって位相を整えることができますが、今回は、実際に収録した音源でその処理の有無で聴きくらべして大きく音が変化することを体験しました。氏は、この方法を用いれば、安易にイコライザーを使って処理するよりも音の鮮度を落とさず音質を変化させることができ、音楽を表現するうえで非常に有効な方法と説明されました。また、グリン・ジョンズのセッティングで録音した音との聴きくらべ、バスドラムのマイクの距離を変えたことでの違いを聴きくらべするなど、盛りだくさんの内容となりました。
講義の最後に質疑応答の時間が設けられ、プロの現場で働く方からの質問もあり、録音について学ぶ学生にとって非常に専門性の高い意義のある講座となりました。今回はドラムの録音を体験しましたが、氏はピアノやアコースティックギターでも考え方は同じと言われました。楽器は異なっても「音楽を録音すること」に変わりなく、すべて基本的に同じ考え方で向かっているという深田氏の言葉が印象的でした。 この日に録音した音源は、以下のように公開しております。ご興味のある方は、ぜひ、ご参照下さい。 |